崩壊の危機にある“国選弁護制度”——報酬の低さと地方の人材不足が招く司法の空洞化

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崩壊の危機にある“国選弁護制度”——報酬の低さと地方の人材不足が招く司法の空洞化

「国選弁護制度は崩壊するのか」——。これは熊本県弁護士会会報の4月号に掲載された、板井俊介弁護士による寄稿記事のサブタイトルである。衝撃的ともいえるこの言葉は、いま国選弁護制度が直面している厳しい現実を鋭く突いている。本稿では、熊本県を例に挙げながら、国選弁護制度の現状とその背景にある構造的な課題について解説する。🔶 国選弁護士の「担い手」が足りない国選弁護士とは、経済的に私選弁護士を依頼できない被疑者・被告人に対し、国の費用で付けられる弁護人のことだ。憲法第37条にも明記されている「刑事被告人の防御権」を保障するために欠かせない制度である。しかし熊本県では、こうした国選弁護を引き受ける弁護士の登録者数が激減している。例えば、休日当番制を維持するためには、最低でも月に40人の弁護士が必要だが、2024年度の登録者はぎりぎりの40人。2025年度はさらに減ると見られている。日中にも国選案件が入るため、登録弁護士たちは常に複数の案件を同時に抱え、過密な業務に追われている。🔶 報酬の低さが直撃登録者の減少には、報酬の低さという大きな要因がある。たとえば熊本市から離れた八代や人吉、天草の警察署へ接見に行く場合、往復で4時間以上を要し、接見の待機時間を含めれば「半日~1日がかり」の業務になる。しかし、報酬は1回の接見につきおよそ2万円。しかも、被疑者段階での接見には上限があり、最大で8万円しか支払われない。起訴後の接見には一切の報酬が出ない。否認事件ともなれば、接見の回数や時間は増加する上、被害者との示談や賠償対応などで弁護士の業務負担はさらに重くなる。それでも報酬は据え置かれたままなのだ。さらに外国人被疑者の場合は、通訳の確保やスケジュール調整といった、通訳人との調整業務まで弁護士が一手に担うことも少なくない。🔶 弁護士数は増えているのに…不思議に思うかもしれない。熊本県の弁護士数は20年前の約100人から、現在では約300人へと3倍に増えている。それにもかかわらず、なぜ国選弁護の担い手は増えないのか?その理由は、事件数が増えていない一方で弁護士が増加したため、1人あたりの収入は事実上半減しているという経済的事情がある。弁護士の多くは個人事業主であり、生活のためにはより利益の見込める案件を優先せざるを得ない。国選事件のような低報酬・高負担の業務は敬遠されがちなのだ。国選弁護の報酬を支払っているのは、法テラス(日本司法支援センター)である。ところが、その職員には検察庁からの出向者も多く、弁護士側の実情が十分に理解されていないという指摘もある。また、法テラスが報酬単価を改定するには、法務省を通じて財務省から予算を確保する必要があるが、防衛費が倍増する一方で、司法予算にはなかなか資金が回らないのが現実である。🔶 地方と都市の“司法格差”国選弁護の担い手不足は、地方ほど深刻だ。東京、大阪、名古屋といった大都市圏や、札幌・仙台・広島・高松・福岡といった高裁所在地の都市では比較的制度が維持されているが、それ以外の地方都市では熊本と同様の危機に直面している。新人弁護士の就職先においても地域差が顕著である。2025年に誕生した新人弁護士1564人のうち、約67%が東京に就職。秋田や高知など、8つの地方弁護士会では就職者がゼロだった。熊本でもわずか8人にとどまる。これは“司法の一極集中”を意味しており、地方の弁護体制が今後さらに弱体化していく恐れがある。🔶 この制度が崩れれば、冤罪が増える国選弁護制度の存在意義を忘れてはならない。それは「すべての人に、適切な法的防御を受ける権利を保障する」という、司法の根幹に関わるものである。これは憲法第37条にも明記された国民の権利である。そしてこの制度が機能しなくなれば、もっとも深刻な影響を受けるのは経済的弱者であり、過去の冤罪事件の多くも、そのような立場に置かれた人々が巻き込まれてきた。適切な弁護活動がなされるためには、適正な報酬制度が欠かせない。これは単に「ボランティア精神」に頼っていい問題ではない。🔶 志ある弁護士が活動を続けられる社会に板井弁護士は、国選弁護の現場で得た経験こそが、民事事件にも活かされるとし、自身も今後も関わっていきたいと述べている。その志を支えるには、「制度としての持続可能性」が必要であり、いままさにその基盤が揺らいでいる。地方における弁護士不足と国選弁護人の減少は、「他人事」ではない。国民一人ひとりの司法アクセスを守るためにも、制度の再設計と資源配分の見直しが求められている。解説:宮脇利充(元RKKアナウンサー)聞き手:江上浩子

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