「正しさを教える」前に、まず話を聴く 熊本刑務所と出水南中学校をつなぐ「リフレクティング」の試み

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「正しさを教える」前に、まず話を聴く 熊本刑務所と出水南中学校をつなぐ「リフレクティング」の試み

今回の「ニュース515+」には、熊本市立出水南中学校の田中慎一朗校長とともに、熊本刑務所から2人のゲストが出演しました。熊本刑務所 矯正処遇部 看守長の桑原悠二さんと、同じく矯正処遇部 教育専門官の竹重昂宏さんです。一見すると、環境も目的も大きく異なる中学校と刑務所。しかし、双方はいま、「リフレクティング」と呼ばれる対話の手法を通じて、互いの実践を学び合っています。共通しているのは、相手に“正しい答え”を与えるのではなく、安心して自分の言葉を話せる場所をつくることです。聞き手は江上浩子(RKK)です。🔶 中学校と刑務所を結んだ「リフレクティング」出水南中学校では、生徒たちが自分の思いや悩みを安心して語れる環境をつくるため、「リフレクティング」を学校教育に取り入れています。リフレクティングとは、話し手の言葉をじっくり聴き、聞き手が受け取ったことを断定せずに言葉にして返す対話の手法です。相手を評価したり、すぐに助言をしたりするのではなく、「私はこのように受け取りました」と伝えます。その言葉を聞いた本人が、改めて自分の思いや行動について考える時間をつくります。もともとは対話や支援の現場で用いられてきた手法ですが、熊本刑務所でも、受刑者の改善更生や再犯防止に向けた取り組みの中で実践されています。「熊本刑務所でリフレクティングが行われていると知り、学校にも取り入れたいと思いました。刑務所と中学校は違う場所ですが、人の話を聴くという点では、とても親和性があると感じたんです」(田中校長)出水南中学校の教職員が熊本刑務所へ研修に出向く一方、希望する生徒が熊本刑務所の職員によるリフレクティングを体験するなど、双方が行き来しながら実践を重ねています。🔶 「教える」ことから「一緒に考える」ことへ刑務所に対して、「厳しく管理する場所」という印象を持つ人は少なくありません。これまでの受刑者教育では、職員側が正解を知っているという前提で、改善すべき点を伝える場面も多くありました。もちろん相手の話は聞きます。しかし、最終的には職員側が伝えたい内容へ導いていく形になりやすかったと、竹重さんは振り返ります。「以前は、こちらが正解を知っているような態度で話を聞き、最後にはこちらが伝えたいことを伝える形になっていました。でも、リフレクティングでは、まず相手の話をじっくり聴きます」(竹重さん)聞き手は、相手の話を聞いて感じたことを「こういうことではないですか」と決めつけるのではなく、「私はこのように受け取りました」と返します。受刑者本人が、その言葉を聞きながら考え、自分自身の問題と向き合っていくのです。これは単に優しく接することでも、責任を曖昧にすることでもありません。「甘やかすということではありません。むしろ、こちらが答えを出さないからこそ、本人が考え、向き合い続けなければならないんです」(竹重さん)🔶 安心して話せる場所が、変化の入口になる熊本刑務所では、リフレクティングを行うための環境づくりにも力を入れています。安心して話せるよう、専用の部屋を整え、無理に話す必要はないことも伝えます。話したくなったときには、自分の中に抱えてきた出来事や思いを語ることができます。桑原さんは、そうした場所が存在すること自体に意味があると話します。「話すことを強制されるのではなく、話したいときには受け止めてもらえる場所がある。それだけでも、受刑者の気持ちは変わってくると思います」(桑原さん)犯罪行為だけを見れば、受刑者は罪名や番号によって管理される存在になりがちです。しかし、改善更生や社会復帰を本気で考えるためには、その人がどのような背景を持ち、どのような人生を歩んできたのかを知る必要があります。「受刑者という記号やラベルだけではなく、一人の人として見なければ始まらないと思っています。その人の背景を見て初めて、社会復帰や再犯防止を考えられるのではないでしょうか」(桑原さん)🔶 受刑者だけでなく、職員の心も支えるリフレクティングは、話をする受刑者だけでなく、話を聴く職員にも変化をもたらしています。刑務所では、ときに殺人事件をはじめとする重大な犯罪について、受刑者の話を聴かなければなりません。その重い内容を一人で受け止め、「どんな言葉をかけるべきか」と考えることは、職員にとっても大きな負担です。竹重さんも、以前は身構えてしまうことがあったと話します。「重い事件の話を聞くとき、一人でどんな言葉をかければいいのかと考えていました。リフレクティングは一人で答えを出す場ではありません。相手の話を聞きながら、一緒に考えることができます」(竹重さん)何かを決定したり、結論へ導いたりする責任を一人で背負う必要がありません。そのため職員自身の心理的な負担が軽くなり、結果として、より前向きに受刑者と向き合えるようになったといいます。職員同士でも、「この人が本当に変わっていくためには何が必要か」を話し合う機会が、少しずつ増えてきました。🔶 学校もまた「正しさ」を教えすぎていないか田中校長は、刑務所での実践を聞きながら、学校にも同じ課題があると感じています。先生と生徒という関係では、教員が「正しいことを教える側」になりやすいものです。しかし、その正しさが目の前の子どもにとって受け入れられるものなのか。その行動の背景に、本人にしか分からない事情や物語がないか。そこを見ないまま指導してしまうことがあります。「私たち教員も、つい正しいことを教えようとします。でも、まずその子の話を本当に聞いているのか。そこを考えなければいけません」(田中校長)子どもの話を十分に聴いたうえで、本人が自分の行動や気持ちと向き合えるように支える。その文化が学校に根づけば、子どもたちも「先生に何かを言われる」のではなく、「自分で考える」機会を持てるようになります。🔶 刑務所と学校に共通する「人を人として見る」姿勢刑務所と中学校では、年齢も置かれている状況も異なります。それでも、相手を一人の人として尊重し、安心して話せる関係をつくるという点では、共通するものがあります。学校では生徒を「問題行動を起こした子」としてだけ見るのではなく、その背景まで知ろうとすること。刑務所では受刑者を「罪を犯した人」としてだけ見るのではなく、社会へ戻っていく一人の人として向き合うこと。どちらも、すぐに答えを出すのではなく、対話を続ける姿勢が求められます。「生徒を一人の人として見て、心理的な安全性が確保された中で向き合う。刑務所と学校が一緒に取り組むことで、これからどんな展開が生まれるのか、私自身も楽しみにしています」(田中校長)🔶 対話は、相手を変えるためだけのものではないリフレクティングの目的は、話し手を思い通りに変えることではありません。相手の言葉を聴くことで、聞き手自身の見方も変わっていきます。受刑者と刑務所職員、生徒と教員。立場の違いはあっても、どちらか一方だけが答えを持っているわけではありません。安心して話し、聴き、一緒に考える。その小さな積み重ねが、受刑者の社会復帰や再犯防止につながり、学校では子どもたちの成長や信頼関係につながっていきます。熊本刑務所と出水南中学校による今回の連携は、「教育とは、正しさを一方的に伝えることではなく、相手とともに考え続けることではないか」と問いかけています。【出演】熊本市立出水南中学校 校長田中慎一朗さん熊本刑務所 矯正処遇部 看守長桑原悠二さん熊本刑務所 矯正処遇部 教育専門官竹重昂宏さん【聞き手】江上浩子(RKK)

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