教育は“カスタマーサービス”ではない ――田中慎一朗校長が語る、学校と社会の関係

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教育は“カスタマーサービス”ではない ――田中慎一朗校長が語る、学校と社会の関係

熊本市立出水南中学校の田中慎一朗校長は、「教育は保護者向けのカスタマーサービスではなく、社会全体のための公共サービスだ」と語ります。子どもの幸せと、保護者の安心。その両方を支えながらも、「お客様満足」に引きずられすぎると、本来の教育が痩せてしまうのではないか――。聞き手は、RKKの江上浩子です。🔶 教育は“保護者サービス”ではなく「公共サービス」田中校長は、教育の大前提としてこう語ります。「学校は保護者の皆さんから預かった子どもたちの“幸せ”のためにある場所です。その背景にはもちろん、保護者の皆さんの幸せもあります。ただ、その役割は『カスタマーサービス』ではなく、社会の基盤をつくる『公共サービス』だと思うんです」教育は、特定の“お客さま”の満足度だけを上げるサービスではなく、社会全体の将来のために、子どもたちを育てていく営みです。▶ 子ども個人の「今の満足」だけを満たす場ではない▶ 10年後・20年後の社会を支える土台をつくる場▶ その意味で「公共の利益」に資するサービスであるだからこそ、ときには子どもにとって「楽しい」だけではない経験も必要になります。🔶 「楽しい授業」だけでは育たないもの近年、教育現場には「もっと楽しく、分かりやすく」という声が高まっています。田中校長も、それ自体は否定しません。「学びを工夫して、できるだけ前向きに取り組めるようにすることは、とても大事です」しかし一方で、子どもの頃の自分を振り返ると――と、こう続けます。▶ 授業中は45〜50分、席に座って話を聞かなければならない▶ テストの前は机に向かうのがつらい▶ 本当は「ずっと休み時間が続けばいい」と思っていた。勉強は、必ずしも「楽しいことだけ」ではありません。それでも、コツコツ続ける中でしか身につかない力があります。「『子どもが楽しいと言っているから良い』『保護者の希望どおりにしておけばトラブルにならない』という方向に流れすぎると、学校が“本当に伝えるべきこと”を手放してしまう危険があります」🔶 「カスタマーサービス化」への危惧田中校長が今、特に気にしているのは「学校の教育活動がカスタマーサービス化していないか」という点です。▶ 保護者の要望に“とにかく応えること”が優先される▶ 子どもが嫌がること・きついことは、できるだけ避ける▶ 表面的にはトラブルが減り、子どもも保護者も“一見満足”しているように見えるしかし、その結果として――「学校でどんな経験を積み、どんな力を身につけるのか、という本質が薄れてしまうのではないか。そこに強い危機感を持っています」学校は、社会全体で育てていくべき子どもたちの「最後の砦」です。ここで必要な経験まで手放してしまうと、こぼれ落ちてしまう子どもが確実に増えていく――田中校長は、そう指摘します。🔶 「隠れ校則」だけが原因なのか? 不登校報道への違和感文部科学省が毎年行っている「問題行動・不登校等調査」。その報道の中で、最近よく取り上げられるキーワードが「隠れ校則」です。▶ 授業開始2分前には着席していなければならない▶ なるべく挙手するよう強く促される▶ ロッカーや棚の中の整理の仕方、かばんの置き方まで細かく決められているこうした“明文化されていない決まりごと”が、子どもたちを追い詰め、不登校の一因になっているという指摘もあります。もちろん、そうしたケースがあること自体は否定できません。しかし田中校長は、そこだけが強調される流れに違和感を覚えています。「一方で、『授業中がうるさすぎて、集中できない』『ちゃんと勉強したいのに、クラスが落ち着かなくてつらい』という理由で、学校に行きづらくなっている子どももたくさんいるんです」▶ チャイムが鳴っても授業がなかなか始まらない▶ 私語が多く、授業が中断されがち▶ 「静かな環境で学びたい」という子どもほど、教室がつらくなるその子たちも、結果的には不登校になります。「“着席2分前”だけが悪者で、“自由さ”だけが正義かのように扱われると、学びたい子どもたちのニーズが見えなくなってしまいます」不登校の背景は、本当にさまざまです。一つのキーワードを“見出し”にして原因扱いしてしまうと、他の多くの子どもの声が埋もれてしまう危険があります。さらに、政策との関係も指摘します。「仮に『不登校の原因は隠れ校則だ』と一面的に扱われると、国としてはそこに重点的に予算をつけることになりますよね。でも、それが全体の一部でしかないとしたら、他の要因への手当てが遅れてしまいます」🔶 家庭と学校、“連携”のイメージがずれている家庭と学校・地域の連携についてのアンケート結果も、田中校長は気になると語ります。保護者側が望んでいる連携は、主に次のようなものです。▶ 学校からの情報提供をもっと増やしてほしい▶ メールやお便りなどで、学校の様子・子どもの様子をこまめに知りたい一方で、教職員側が連携として重視しているのは――▶ 保護者と「協議する場」がほしい▶ 懇談会などで、直接意見交換できる時間が大事「保護者の皆さんは“情報を受け取ること”を連携と捉えている傾向があり、教職員は“対話や相談の場をもつこと”を連携と考えている。ここに少しズレがあるように感じています」本来は、▶ 子どもをどう育てていくのか▶ 10年後・20年後の社会をどう支える人になってほしいかという視点を、家庭と学校・地域が一緒に考えていく必要があります。そのためには、一方向の「お知らせ」だけでなく、お互いの考えを率直に交わす場づくりが欠かせません。🔶 学校は「社会の宝」を育てる場所田中校長は、こう締めくくります。「学校は、家庭の“お客様満足”を達成する場所ではなく、社会全体の宝である子どもたちを育てる『公共サービス』の場です。だからこそ、時には耳に痛いことも含めて、子どもたちに伝えなければならないことがあります」▶ 不登校の問題に、簡単な“犯人探し”で答えを出さないこと▶ 子どもの声を丁寧に聞きつつも、「伝えるべきこと」を手放さないこと▶ 家庭・学校・地域が対話を重ねながら、「子どもは社会全体の宝」という視点を共有すること「効率性や“コスパ”だけで教育を語るのではなく、子どもたち一人ひとりが未来の社会を支える存在だという視点から、みんなで考えていければと思います」教育を「サービス業」としてだけ見るのではなく、社会の土台をつくる営みとして、もう一度捉え直してみる。そんな視点を投げかけるお話でした。

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