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年末の挨拶回りが交わす「今年もお世話になりました」の一言。その短い言葉の背後で、2025年は“ロックを作り直した世代”の訃報が静かに重なりました。TheJam、New York Dolls、Gang ofFour、そしてジミー・クリフ。宮脇利充さんが、熊本で体験した音楽映画の記憶とともに、喪失の意味と「会っておけばよかった」という後悔をたぐり寄せます。🔶仕事納めの挨拶が、年末の空気を決める年末が近づくと、街のあちこちで「今年もお世話になりました。よいお年を」という言葉が交わされます。いわゆる“仕事納めの挨拶回り”は、年賀状のように簡略化が進む私的な習慣とは違い、いまも残り続けています。ただ、その場は単なる儀礼ではありません。短い会話の中で、1年の失敗を笑い合ったり、来年の話がふっと芽を出したりする。年末の挨拶とは、忙しい日常のすき間に差し込まれる「小さな振り返りの時間」でもあります。この日の「ニュース515+plus(RKKラジオ)」も、年内最後の放送回として、そうした“振り返り”にふさわしいテーマが選ばれました。解説を担当したのは元RKKアナウンサーの宮脇利充(みやわき・としみつ)さん、聞き手は江上浩子(えがみ・ひろこ)アナウンサーです。🔶2025年——“ロックを作り直した世代”が静かに去っていく宮脇さんが持ち込んだのは、2025年に亡くなった音楽家たちを悼むためのCDでした。話題の中心にあったのは、パンク、ニューウェーブ、ポストパンク——つまり、70年代後半以降に「それまでのロックを一度壊して、作り直した」担い手たちです。実際、2025年には象徴的な名前が相次いで報じられています。★The Jamのドラマー、Rick Buckler(リック・バックラー)さん(2025-02-17、69歳)★New York Dollsのフロントマン、David Johansen(デヴィッド・ヨハンセン)さん(2025-02-28、75歳)★Gang of Fourのベーシスト、Dave Allen(デイヴ・アレン)さん(69歳)★60年代から独特の陰影を放った歌手・俳優のMarianne Faithfull(マリアンヌ・フェイスフル)さん(2025-01-30、78歳)★そしてレゲエを世界に押し広げたJimmy Cliff(ジミー・クリフ)さん(2025-11-24、81歳)ここで大事なのは、「有名人が亡くなった」という話だけではありません。宮脇さんの言葉を借りるなら、時代の空気を変えた人たちが“鬼籍に入っていく”ことで、こちら側が音楽史の節目に立たされる、という感覚です。半世紀前の革命が、いまは追悼という形で私たちに届く。年末の静けさは、ときにそういう現実をよく見せます。『ハーダー・ゼイ・カム』と、熊本で体験した“1日上映”の時代番組では、ジミー・クリフさんが主演した1972年の映画『The Harder They Come(ハーダー・ゼイ・カム)』にも話が及びました。宮脇さんが印象的に語ったのは、映画館でのロードショーではなく、市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)のような会場で“昼間に1日だけ”上映される——そんな見せ方が、当時は珍しくなかったという記憶です。いまは音楽映画が次々に公開され、熊本でも老舗の映画館・電気館などで多様な作品がかかります。しかし昔は、ロック映画は「観たい人が点で集まるイベント」に近かった。客席が数人しかいない日もあれば、逆に“ライブの熱”のような空気に包まれる夜もあった。宮脇さんの回想は、音楽の流行史というより、地方都市が文化を受け取るときの手触りを伝えていました。🔶The Jamと「会っておけばよかった」という、取り返しのつかない話番組後半で焦点になったのは、The Jamのドラマー、リック・バックラーさんの死でした。The Jamの代表曲「Town Called Malice(タウン・コールド・マリス)」は1982年のシングルとして知られます。その曲の勢いとは対照的に、話は“人間関係の停止”へ向かいます。宮脇さんが紹介したのは、ポール・ウェラーさんが「長く話していなかった相手に、連絡しないまま時間が過ぎた」ことへの悔いを語った趣旨でした。実際に英音楽誌Uncutなどでも、ウェラーさんの追悼コメントが報じられています。要するに、ここで語られた追悼の核心はこうです。音楽の歴史は、音の歴史である前に、人の歴史だということ。会わないままの年月は、ある日突然“終わり”に変わります。だから、迷ったら会っておく。声をかけておく。年末の挨拶回りがしぶとく残る理由も、案外そこにあるのかもしれません。🔶受け取った音楽を、次の言葉へ宮脇さんの語りは、追悼で終わりません。残された側ができるのは、音楽を“聴き直す”こと、そして“語り直す”ことです。過去の曲が、いまの生活の中でまた鳴り始める。その瞬間に、文化は相続されます。年末は、暦の区切りです。同時に、記憶の棚卸しでもあります。2025年の終わりに流れた数曲は、私たちに「何を受け取り、何を返すのか」を静かに問いかけていました。解説:宮脇利充(元RKKアナウンサー)/聞き手:江上浩子(RKK)
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