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元RKKアナウンサーの宮脇利充さんが、高市早苗首相の国会答弁と世論調査の結果から、日本社会の変化について語ります。聞き手はRKKの江上浩子です。🔶 発端は「台湾有事は存立危機事態になりうる」発言11月7日、衆議院予算委員会でのことです。立憲民主党の岡田克也議員の質問に対し、高市早苗首相が次のような趣旨の答弁を行いました。▶ 中国・北京政府が台湾を完全に支配下に置くため、戦艦を動かし武力行使を伴う行動に出た場合、それに対しアメリカが軍を派遣するようなケースであれば「どう考えても存立危機事態になりうるケースであると私は考える」「台湾有事」が日本の「存立危機事態」に当たりうる、と首相自らが明言した形です。宮脇さんは、この発言そのものにも驚きを覚えたとしたうえで、「それ以上にショックだったのは、その受け止め方を示した世論調査の結果でした」と話します。🔶 「存立危機事態」と集団的自衛権とは何か高市首相の答弁を理解するためには、「存立危機事態」と「集団的自衛権」というキーワードを押さえる必要があります。まず「集団的自衛権」とは・・・ 自国が直接攻撃されていなくても、密接な関係にある他国への武力攻撃に対し、実力を用いてそれを阻止する権利と国際法上定義され、日本政府も同様の説明を行っています。日本では長く「専守防衛」を掲げ、海外での武力行使や集団的自衛権の行使は、「憲法上許されない」とされてきました。流れが変わったのは、第二次安倍政権の2014年です。▶ 2014年7月第二次安倍内閣が「集団的自衛権の限定的行使を容認する」とする閣議決定▶ 2015年安全保障関連法(いわゆる安保法制)が成立し、「存立危機事態」が法律上定義される法律上の「存立危機事態」は、要約すると次のような状態を指します。▶ 日本と密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、その結果、日本の存立が脅かされ国民の生命・自由・幸福追求の権利が「根底から覆される明白な危険」がある場合。この条件を満たしたと内閣が判断したとき、日本は集団的自衛権を行使し、自衛隊が武力行使に参加できる――つまり「海外で戦闘に関わる可能性が現実化するライン」が「存立危機事態」だといえます。🔶 世論調査が映した「問題なし」50%という現実では、高市首相の国会答弁を、世論はどう受け止めたのでしょうか。毎日新聞と社会調査研究センターが今月実施した世論調査では、「台湾有事が存立危機事態になりうる」とした高市首相の答弁について、▶ 「問題があったと思う」……25%▶ 「問題があったとは思わない」……50%という結果が出ました。宮脇さんは、「数字を見て思わず『逆じゃないのか?』と感じた」と振り返ります。調査結果の内訳を見ていくと、傾向はよりはっきりします。▶ 自民党支持層の65%、日本維新の会支持層の54%、国民民主党支持層の65%が「問題なし」▶ 参政党・日本保守党の支持層では「問題なし」が8割を超える▶ 年代別では、40歳以下の55〜60%が「問題なし」と回答▶ 一方で60代は49%、70歳以上は41%と、年齢が上がるほど「問題視する」傾向が強まる「若い世代ほど、高市首相の発言を“問題ない”と受け止めている。このことに、強い違和感と危機感を覚えました」と宮脇さんは語ります。🔶 「日本の存立を脅かす」のは何かここで、もう一度「存立危機事態」の中身に立ち返ってみます。高市首相の答弁は、▶ 中国が台湾に上陸・封鎖などの行動に出る▶ それに対しアメリカが軍を派遣する▶ その結果、日本もそれに「加勢」するケースは「存立危機事態になりうる」という筋立てでした。宮脇さんは、ここに大きな論点があると指摘します。「日本の存立が本当に脅かされるのは、中国とアメリカが戦火を交える“から”ではなく、そこに日本が自衛隊を派兵して“参戦するから”ではないか――そう考える必要があると思うんです」戦争は一度始まれば、どこで歯止めがかかるか誰にも分かりません。▶ 当初は自衛隊だけが前線に送られる想定でも、戦況次第では拡大する可能性がある▶ 「最小限の武力行使」で済む保証は、どこにもない▶ そのとき実際に危険にさらされるのは、若い世代そのものにもかかわらず、その世代の多くが「問題ない」と答えている。「自分たちが戦場に行く可能性まで想像したうえでの回答なのか、とても気になります」と宮脇さんは言います。🔶 それでも「派兵しない」選択肢はありうるさらに宮脇さんは、制度上のポイントも押さえます。▶ 「存立危機事態」に当たるかどうかを判断するのは、最終的にはその時々の内閣▶ 仮に台湾有事が起きても、「存立危機事態だが、自衛隊は派遣しない」と判断することも理屈の上ではありうる▶ そもそも、アメリカが必ず軍を動かすと決まっているわけでもない「だからこそ、首相が国会の場で『台湾有事は存立危機事態になりうる』と先んじて言ってしまうことの意味は重いと思います。日本がどの局面で“戦う側に回るか”というラインを、事実上前倒ししてしまう危険性があるからです」と指摘します。🔶 戦後日本の約束と、いま問われているもの宮脇さんが何より懸念しているのは、「日本は戦争をしない」という戦後日本の大前提が、いつの間にか揺らぎ始めているのではないか、という点です。日本国憲法前文には、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し」という一文があります。これは、日本が二度と戦争を起こさないという誓いの表現でもあります。「他国からの侵略に対して自国を守る――それは当然のことです。しかし、自国が直接攻撃されていない段階で、海外の戦争に参加することが本当に許されるのか。そのラインを、世論も政治も、いつの間にか“緩めてしまっている”ように感じます」と宮脇さんは語ります。「世の中って、変わるときには一気に変わります。だからこそ、国会答弁一つ、世論調査一つを『まあそんなものだろう』で済ませず、本当にそれでいいのか、私たち一人ひとりが考える必要があると思います」🔶 新しい世論調査のかたちと、その重み今回の毎日新聞の世論調査は、電話ではなくインターネットを通じて行われました。▶ 社会調査研究センターが、NTTドコモの「dポイントクラブ」会員を対象にインターネット調査「dサーベイ」で実施し、全国の18歳以上を母集団とし、無作為抽出で1985人から有効回答を得た。という方法です。「従来とは違うやり方とはいえ、約2000人からの回答が示した傾向は、今の日本社会の“空気”の一端を確かに映していると思います。だからこそ、この結果を軽く扱うのではなく、じっくり向き合う必要があると感じました」宮脇利充さんの話は、「平和」を前提としてきた戦後日本が、いまどこに立っているのか――その足元を問い直すきっかけを投げかけています。
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