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2026年4月、教育現場では新年度が始まりましたが、いじめ問題を巡る「調査」の在り方については今なお大きな課題が残されています。熊本市立出水南中学校の田中慎一朗校長は、いじめの重大事態が発生した際に設置される「第三者委員会」について、その公平性や手続きの不備といった、現在の制度が抱える「歪み」を指摘します。聞き手は、RKKの江上浩子です。🔶 「第三者委員会」が直面する、人選と公平性のジレンマいじめ防止対策推進法では、いじめによる「重大事態」が発生した際、被害者側の希望や行政・学校の判断により「第三者委員会」を設置することが定められています。文字通り「第三者」が客観的に事実を調査する仕組みですが、田中校長はその「人選」の段階から難しさがあると言います。人選の不透明さ: かつては教育委員会(行政)がメンバーを選んでいたため、「身内や都合の良い人間を選んでいる」という批判がありました 。「第三者」の定義の揺らぎ: 現在は弁護士会や心理士会からの推薦を受ける形が一般的ですが、一方で被害者側の意向が強く反映された人選が行われるケースもあります 。選任の曖昧さ: 公的な推薦を得る義務などの厳格な規定がなく、運用が自由に行える現状があり、委員の主義主張が調査に反映されやすい構図になっています 。🔶 裁判とは異なる「手続き保障」の欠如田中校長が特に懸念しているのは、調査プロセスにおける「公平性」です。裁判であれば原告と被告の双方が等しく主張し合い、不服があれば上訴する権利(手続き保障)がありますが、第三者委員会の枠組みは異なります。反論の機会の乏しさ:申し立てられた側(加害者とされる側)も聞き取りは受けますが、あくまで調査委員の文脈に沿ったものになりがちで、十分な弁明や反論の手続きが保障されていません 。不服申し立ての格差:いじめ防止対策推進法では、被害者側は委員会の結果に納得がいかない場合、首長部局に対して再調査を申し立てることが可能です。しかし、申し立てられた側には同様の権利が認められていないのです。「裁判のような双方が言い合える場とは異なり、第三者委員会では一方の権利(被害者救済)が優先されるあまり、もう一方の手続き保障が置き去りになっている恐れがあります」🔶 「非公表」に埋もれる名誉回復のチャンス第三者委員会の設置は大きく報じられる一方で、その「結果」が市民に伝わらないケースが多々あります。これが、申し立てられた側の「名誉」を著しく傷つける実情を生んでいます。▶ 報道の偏り:委員会の立ち上げはニュースになりますが、調査の結果「いじめがなかった」と判断された場合でも、その結果が非公表になれば市民は真相を知る術がありません 。▶ 名誉回復の困難さ: 加害者という疑いをかけられた側は、事実に反する結論が出たとしても、それを公に否定し、名誉を回復するチャンスを失ってしまうのです 。また、実務面でも「委員のなり手不足」という深刻な問題が起きています。税金を原資とする報酬は弁護士の通常業務に比べて非常に低く、長い時間を費やしても結果が非公表になれば、専門家としての労力が社会に還元されないという空虚さを生んでいます。🔶 まとめ:被害者救済と公平性のバランスを求めて田中校長は「被害者救済が最優先であることは大前提だ」とした上で、現状の「第三者委員会」というネーミングが持つ「絶対的な公平性」というイメージに警鐘を鳴らします。「第三者が調査したからといって、そのすべてが絶対的な事実とは限りません。誰かを守るための仕組みが、別の誰かを深く傷つけてしまうリスクについて、私たちは共通認識を持つ必要があります」海外のように、被害者救済の仕組みと、事実をジャッジする仕組みを分けるといった「手続きの適正化」への議論。いじめ問題を誰もが納得できる形で解決するためには、表面的な調査に留まらない、より高度な制度設計が求められています。出演:熊本市立出水南中学校校長・田中慎一朗さん/聞き手:江上浩子(RKK)
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