台風前、浅草地下商店街にて #23

28分

台風前、浅草地下商店街にて #23

大型台風13号が東京に最接近したその日、松重ディレクターと筆者は「こんな日だからこそ、どんな方がいるのだろう」と息巻いて浅草地下商店街へと向かったのです。


 誰もいません。本当に、誰も。全休符。ただ錆色の沈黙が広がるばかり。「何で誰もいないんだろうか」など思わず愚問が唇から溢れましたが、答えは今ほど述べた通りでした。台風です。人は、帰るのです。同語反復も良いところです。

 

加えて時刻はまだ夕方。17時を回ったか回らないか。シャッターが下ろされた飲食店の営業時間は18時以降が多いのです。浅草地下商店街に直結の地下鉄へと続く道を人々が帰っていくなか、時間、やること、持て余せるもの全てを持て余して天井を見上げればむき出しのダクトより、水が滴り落ちてきます。いかなる俳人をしても風流を見出せない水滴が、床に溜まっていきます。

 

 諦めてはいけません。幸いにも浅草地下商店街入り口に座っていた男性にお話を伺うことができました。男性は普段、浅草、押上周辺を主に拠点とされており、今は台風を避けるため、一時的に地下商店街に座っておられたとのこと。

 

これまでの職歴やご出身、普段のルーティンなど男性は訥々と初対面の我々にお話してくださいました。一点、どうしても気になることがありました。男性は、指輪をはめていらっしゃったのです。薬指に。

 

訊いて、よいのでしょうか。

ちらほら、地下商店街のお店のシャッターが開き始めています。天井から床に滴った水を店主の方がモップで拭いております。そろそろ台風の夜が始まろうとしています。振り返れば男性はもう、別の拠点へと向かっておりました。

 

文責:洛田二十日(スタッフ)


 

 


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